円安の進行やFX・仮想通貨投資への関心が高まる中で、多くの投資初心者が適切な投資判断に迷いを感じています。
しかし、為替変動の仕組みや投資リスクの管理方法を正しく理解している人はまだ多くありません。
そこで今回は、FX・仮想通貨投資における実践的な知識と注意点を明らかにするため、金融の専門家にお話を伺いました。
この記事を読むことで、円安が投資に与える影響や適切な分散投資の方法、さらには金利変動への対応策まで、幅広く理解することができます。
FX・仮想通貨投資に関心のある方はもちろん、為替変動の影響を理解したい方にも役立つ内容です。

茶野 努
武蔵大学 経済学部金融学科 教授
■ご経歴
東京大学経済学部卒業、大阪大学経済学研究科で博士(経済学)取得。
2017年から1年間フルブライト研究員プログラムを活用して、コロンビア大学ビ ジネススクールに留学した。
金融庁金融経済研究センター特別研究員・Asian Finance学会理事(2021-2025 年)などを経験。
2024年からは、日本ファイナンス学会理事を務める。
現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授として、コーポレート・ガバ ナンス分野を中心とした研究・教育に従事している。
円安が投資に与える影響と対策

現在、日本とアメリカの金利差の影響で円安が続いていますが、FXや仮想通貨に投資する人にとって、この円安はどんな影響があるのでしょうか?また、投資でお金を増やそうとする時に、為替の変動で損をしないためにはどんなことに気をつけるべきでしょうか?



日本で暮らしている人は、「日本円」単位での生活を送ることになります。生活をするためには、日々様々な商品やサービスを購入する必要がありますが、その際にはそれぞれの人の「日本円単位」での「購買力」に合わせて、商品やサービスを購入して、生活を送ることになります。
グローバル社会の下では、多くの商品などは海外からの「輸入」に頼っているので、円の価値がドルの価値に対して安い「円安」の状態では、「日本円」単位での物価が上がり、購買力が下がることになります。
FXの投資をこれから始める人にとって、「米ドル/円」の組み合わせで取引を始める人が多いと思います。このような人にとって、「円安」局面で投資を始める場合は注意が必要です。



具体的な数値を使って解説お願いしてもよろしいでしょうか?



たとえば、「1ドル150円」という「円安」と思われる水準で「ドル買い」というFX投資を始めた場合、「円安」局面が短期的で「円高」方向に円ドルレートが振れた場合(1ドル140円などへの変化)は、損失を被りやすい可能性があります。
為替レートは、金融政策の変化があると、変動の可能性が高いです。2国間の為替レートを考えた場合、より金利が低い国では、その金利差が大きいほど、相対的に「通貨供給量」が増えるので、対外貨に対して安くなる可能性が高いです。現状では、トランプ政権の下で、米国の「利下げ」の可能性が大きく指摘されているので、「金利差」が小さくなり、「円安」は継続しない可能性もあります。
為替の変動での「損」を小さくするためには、「為替」に変動を与える様々なニュースに注目することが重要になると思います。
仮想通貨関連企業への投資判断のポイント



仮想通貨の取引所や関連企業に投資を考える時、どんなポイントを見れば良い会社かどうか判断できるでしょうか?普通の上場企業と比べて、仮想通貨業界の会社を選ぶ時に特に注意すべき点があれば教えてください。



仮想通貨の取引所や関連企業への投資を考えるとして、その対象は多岐にわたります。たとえば、「三菱UFJ」などの大手の金融機関も「仮想通貨」取引を扱っているという意味では、関連企業といえますし、「GMOフィナンシャルホールディングス」のような「GMOコイン株式会社」を子会社化して、「仮想通貨」の取引所を提供するなどして、「仮想通貨」取引をより直接的に扱っている企業もあります。
普通の上場企業ではなく、これらの企業に「投資」を行う場合に注目する点としては、「金融業」への投資になるという点が重要です。



なぜ、「金融業」への投資になることが重要になるのでしょうか。



「金融業」の場合は、銀行であれば「預金者」の資金を預かっており、証券(FX・仮想通貨)取引を扱う会社では、「投資家」の資金を預かっている点が、一般企業とは異なります。「預金者」あるいは「投資家」が、引き出したい資金を確実に引き出せるための「財務」の安定性が、特に重要になります。
この点については、「格付け機関」が「信用格付け」の情報を提供しています。したがって、格付け機関の「信用格付け」が十分に高い投資先を選択することも重要になると思います。
FX・仮想通貨投資における分散投資の方法



投資では「分散投資をすることで損失のリスクを小さくできる」と言われますが、FXや仮想通貨のような値動きの激しい投資をする場合、どうやってリスクを分散すれば良いでしょうか?例えば、投資資金をどんな割合で分けるのが安全なのか、初心者にも分かりやすく教えてください。



株式投資などでの分散投資は、ある程度の多くの株式に資金を分散して投資をすることで、特定のリスクに対して、「逆」の方向の変動が見込まれる「株式」に投資ができるという点が重要です。



なるほど、もう少し深掘りたいので具体的な事例などはありますか?



たとえば、パンデミックという「リスク」が発生した時には、「飲食産業」などは経済活動が抑制されるため、株価に悪い影響があるが、「製薬業界」には、ワクチン開発などが期待されるため、株価に良い影響が考えられます。「飲食業界」の株式に集中投資している投資家は、株価への悪い影響を受ける一方で、分散投資をして、「飲食業界」と「製薬業界」の株式を両方保有している投資家は、「飲食業界」の株価への悪い影響と「製薬業界」の株価への良い影響の両方を受けるので、結果として、大きな損失を回避できることが考えられます。



では、FX(為替)投資などの場合は、どのように分散投資をすればいいか?



アメリカの現トランプ政権は、米国企業の輸出を増やすために、「ドルの価値を下げる」ことを目指していると言われています。そこで、「米国の通貨(ドル)安」というリスクを懸念したとします。この場合、日本の投資家が「FX投資でドル」を現在の1ドル140円程度で購入したとしても、「ドル安(円高)」になった場合、近い将来に1ドル130円などになり、「ドル安円高」のリスクによる損失を被るリスクがあります。
したがって、「円高」のリスクを回避するためには、「円安」になりそうな他の通貨にも分散投資を行うことが重要になります。したがって、たとえば対ドルで「円高」になりそうと考えている場合は、「円安」になりそうな他の通貨を見つけて、そこにもドルと同じような比率で投資することが重要になると思います。
金利変動が投資に与える影響と対応策



日本銀行が金利を上げ始めたり、アメリカの金利が変わったりすると、FXや仮想通貨投資にはどんな影響があるのでしょうか?こうした変化を早めに察知して投資に活かすために、投資家はどんなニュースや情報に注目すれば良いでしょうか?



「国債への投資」を考える投資家にとっては、他国間の「金利差」が問題になります。仮に、日本の金利が年利0.25%、米国の金利が年利4.25%、円ドルレート150円の状況を想定します。
この場合、日本円で150万円を使った「投資」を考えた場合、日本国債を買えば、1年後には、150万円の0.25%である「3750円」の金利収入が得られることになります。一方で、日本円をドルに換えて、米国債を買った場合、1ドル150円なので、150万円は、1万ドルになり、1万ドル分の米国債から4.25%の利回りで「425ドル」分の金利収入が得られることになります。
1年後の為替レート次第ですが、日本で投資した場合、「150万3750円」、米国で投資すると、「10,425ドル」になるので、仮に1年後に1ドル145円に円高が進んでも、米国で投資した場合の円ベースの価値は、「151万1625円」となります。



上記の場合ですと、海外で投資した方が得ということになりますね。



そうですね。
このように、「金利差がある」状況では、米国の方が日本より「金利」が高い場合は、米国での投資を考える投資家が、「円」を「ドル」に代えて投資しようとするため、「円」が売られて「ドル」が買われることによる「円安ドル高」が進むことになります。
日本の「金利」は日本銀行が「ほぼゼロ」に維持する「ゼロ金利政策」が長年続いてきましたが、昨年8月に「0.25%」に利上げして、その後も「利上げ」の可能性が懸念されている状況です。また、米国においても、現在の政策金利は4.50%程度で推移していますが、トランプ政権の下で、「利下げ」の可能性が高まっている状況です。
仮に、日本が「利上げ」して、米国が「利下げ」すると、日米の「金利差」が縮小する可能性が高いです。このような状況では、先ほど述べた「米国債」での投資のメリットが小さくなるため、「円売りドル買い」をする投資が少なくなり、「円安ドル高」の進行が少なくなる可能性もあります。
なお、金利水準の決定については、日本の場合は日本銀行の政策決定会合で、米国の場合はFRB(連邦準備制度理事会)のFOMC(連邦公開市場委員会)で決まります。これらのニュースは、世界中の投資関係者が注目しているため、すぐにニュースとして公開されます。したがって、このようなニュースに注目することで、金利の変化に瞬時に反応することができると思います。
投資初心者が身につけるべき基礎知識



FXや仮想通貨を始めたばかりの人は、インターネット上にあふれる情報の中から何を信じて良いか分からないことが多いと思います。初心者が騙されたり、大きな損をしたりしないために、どんな基礎知識を身につけて、どんな考え方で投資に取り組むべきでしょうか?



投資初心者の場合は、分からないことが多いと思います。
特に、FXや仮想通貨の投資は、一般の株式投資に比較して、「リスク」を取ることが簡単なので、「ハイリスク・ハイリターン」型の投資も可能になります。
短期に稼げる可能性があるので、「ハイリスク・ハイリターン」型の投資は魅力的ですが、経験の少ない場合は、様々な「リスク」を判断することは難しいです。大きな損をしないためには、「ハイリスク型」の投資を避けることが重要だと考えられます。



初心者は特に「リスクヘッジ」を意識する事が重要という事ですね。



FX投資をするにせよ、仮想通貨投資をするにせよ、まずは「自分が決めた投資方法」について、最低限の理解をする必要が十分になります。そこで、1冊は「基本的な解説書」を読んでから投資をすることが重要になると思います。
「FXや仮想通貨では、市場において、どのように価格形成がされるか?」、「投資した場合、自分の資金はどのように変動するか?」といった点については、最低限の理解をしてから、投資を行うことが重要です。よく分からないが、とりあえず儲かりそうだからという理由での投資は避けた方がいいでしょう。
まとめ:賢いFX・仮想通貨投資のために
本インタビューでは、金融の専門家にFX・仮想通貨投資について幅広くお話しいただきました。
円安が投資に与える影響から、適切な分散投資の方法、金利変動への対応策まで、実践的な知識を得ることができました。
特に重要なポイントは、投資初心者はハイリスク投資を避け、基本的な知識を身につけてから投資に取り組むことです。
また、仮想通貨関連企業への投資では財務の安定性と信用格付けが重要であり、FX投資では複数通貨への分散投資がリスク軽減に効果的であることがわかりました。
金利変動の影響を理解し、日銀やFRBの政策決定に注目することで、より効果的な投資判断が可能になります。
今回のインタビューが、読者の皆様のFX・仮想通貨投資の参考になれば幸いです。
なお、投資を行う際には、よくご自身で調査・検討を行ったうえで、自己責任で判断することをお願いします。