エルサルバドルのBTC実験、その光と影 ― ビットコインは通貨になり得るのか?

2025年に入ってから、暗号資産市場は大きな動きを見せています。特にビットコイン価格の高騰により、短期的な投資に注目が集まる一方で、法定通貨としての役割にも関心が高まっています。

エルサルバドルが2021年に世界で初めてビットコイン(BTC)を法定通貨に採用したことは、世界的に注目を集めました。しかし2025年、その方針を一部後退させたことで、暗号資産の法定通貨化に対する期待と懸念が改めて浮き彫りとなりました。なぜエルサルバドルはBTCを導入し、そしてなぜその後退を余儀なくされたのか。

そこで今回は、専修大学の小川健教授にお話を伺い、BTC導入の背景にある送金手数料や投資誘致の狙い、そして制度運用や市民教育の課題を分かりやすく解説していただきました。

小川 健
専修大学 経済学部 教授

理学部(旧数学科)から大学院より経済学に移る。2011(平成23)年3月博士(経済学、名古屋大学)。現在の担当は、国際経済論、資源・エネルギー論、数学補充科目、貿易論など。専門は近経貿易理論、水産物貿易(理論)、暗号資産教育、経済学教育におけるICTの活用など。貿易論に限らずマルチに活動。2015(平成27)年4月より現在の大学に移る。教育の工夫の一環として国際金融の講義に暗号資産教育や外貨建て保険等を取り入れてきた。


この記事を読むことで、ビットコインの法定通貨化が持つ経済的・社会的な意味を多角的に理解することができるでしょう。

エルサルバドルがBTCを法定通貨化した背景

編集長

OGAWA先生、エルサルバドルはBTCを法定通貨から事実上排除しましたが、そもそも法定通貨化した背景とは、どのようなものだったのでしょうか?

T.OGAWA氏

国際送金流入に際しての手数料削減とBTCを利用した投資呼び込みを元々の法定通貨化した観点として押さえて頂く必要があろうかと存じます。中米エルサルバドルは元々中米でも有数の工業国の位置付けがありながら、「サッカー戦争」とも言われたホンジュラスとの戦争が1969年に起きて以来、長く続いた内戦で没落していきました。現在のブケレ大統領が就任する直前までには「世界有数の治安の悪い国」の印象も相まって、途上国にしては経済成長のし難い国という位置付けを起こしていた部分がありました。

編集長

なるほど。内戦が原因であまり良い印象になっていなかったのですね。

T.OGAWA氏

Trading Economicsのサイトによると、「エルサルバドルのGDP成長率は、1990年から2024年までの平均で0.75%」とかなり低いのですが、これがどれだけ低いかをイメージするために、「失われた30年」がこの時期に挟まる日本の実質GDP成長率(0.82%)と比較すると、それより低いエルサルバドルの平均成長率が如何に低く抑えられていたかが分かります。

編集長

エルサルバドルは元々どのような通貨を使用していたのでしょうか?

T.OGAWA氏

2001(平成13)年に自国通貨・コロンを廃し米ドル直接流通へとエルサルバドルは切り替えています。他に中南米では右翼系の政権になったときなどに主に行われますが、パナマやエクアドル等も通貨の米ドル直接流通化を行っています。そして、米ドルの現金に20年かけて慣れてきた2021(令和3)年6月の段階でブケレ大統領が導入したのがビットコインの法定通貨化でした。ブケレ大統領は決して米ドル直接流通を廃したかったのではなく、ビットコインを(米ドルに次ぐ)第2の法定通貨に加える決断を当時した、ということです。

編集長

ではブケレ大統領は何故BTCを法定通貨に加えるという判断をしたのでしょうか?

T.OGAWA氏

当時最もエルサルバドルで問題になっていた1つが送金流入における手数料の高さでした。当時でもGDPの2割を超えていた外国からの送金流入で手数料が高かったら国内問題として決して無視できない、ということは分かるかと思います。しかしエルサルバドルは当時を象徴する説明として、「国民の7割は銀行口座を持たず、国民の8割が携帯電話を持つ」現金社会という説明があります。国民の7割が銀行口座を持っていないとするなら、銀行を経由した送金方法は事実上使えません。それでいて日本より遥かに現金社会です。

編集長

日本とは全く違う社会状況だったのですね。

T.OGAWA氏

日本だと現金利用者の多くが「ATMがほぼ24時間使える状況を背景に」現金利用、という選択をするかと思われます。しかし、銀行口座を持たない人が多いエルサルバドルではATMを利用する人など限られます。もちろんクレジットカードなどというものは一般に普及している訳ではありません。その状況で現金社会ということは、本当に現金を持ち歩く必要があり、例えばケニアのように携帯電話で決済ができる所など当時本当に限られていました。

T.OGAWA氏

ブケレ大統領が当時最も問題視していた1つがこの「送金手数料の高さ」であり、ここで出てきたのが2013(平成25)年のキプロスの金融危機以降、まず国際送金の手段として注目されたビットコインでした。

編集長

ビットコインは送金手数料の削減に役立つのでしょうか?

T.OGAWA氏

送金業者の「優越的地位」を考えるとビットコインで送った方が安く送れました。とはいえ、「ビットコインで送ると安く送れるよ」とただ言った所で、その届いたビットコインを「どうやって」米ドル現金に置き換えるかが分からないと、現金社会のままでは通用しません。仮にビットコインで国際送金を手数料安く受け取り、そのまま買い物などの支払いに使えるなら、現金を直接持ち歩くことなく携帯電話さえ持っていけば決済ができる訳です。幸いなことに国民の8割は携帯電話を持っていますので、「携帯電話が無いから」決済ができない、ということは本来なら(慣れれば)起きにくい筈です。

ビットコイン導入の課題と現実

編集長

ビットコインATMの導入など環境整備に取り組んだにも関わらず、エルサルバドルの一般市民にはビットコインがあまり普及しなかったと聞きます。その理由は何でしょうか?

T.OGAWA氏

まずここで「ビットコインATM」という用語には注意が必要です。そしてこれこそが、中米エルサルバドルでビットコインが「一般の市民・庶民には」あまり普及しなかった理由の1つに繋がります。

T.OGAWA氏

通常、我々がATMと聞くと、預けるときには「同じ通貨で」入り、同じ通貨のまま額面が保たれ、同じ額面のまま取り出せるもの、とイメージする筈です。しかし、エルサルバドルは米ドル現金が直接流通する社会であり、一方でビットコインは直接取り出せるものではありませんし、他方で銀行口座ではないのでビットコインATMでは「米ドルで」保存する訳ではありません。

編集長

この当時、一般市民のビットコインに対するリテラシーはどうだったのでしょうか?

T.OGAWA氏

ビットコインATMは預かった米ドルをその場でビットコインに換えて保存し、そのビットコインの額面が保存された状態で、引き出すときにはそのときのレートで米ドルに換算して取り出します。ということは、預けたときのビットコイン価格より引き出すときにビットコインの価格が目減りしていた場合、交換レート(ビットコイン価格)が変わることを理解していないと、「お金を盗られた」も同然の感覚に陥る、ということになります。

T.OGAWA氏

そして「先物取引」をはじめとする、為替レートの変動リスクに対するデリバティブ取引等の方法が整備され、その方法が一般の在住者・市民・庶民が身近に使える形になっていないと、「レート変動のリスク管理を自分でしてね」ともいえない訳です。エルサルバドルにはそうした市場整備もデリバティブ取引の仕組みや使い方の教育も(当時)されてはいませんでした。為替リスクならぬビットコインの価格変動リスクが直撃し、一般の市民にはそのリスク回避法・管理法は伝えられていない形であったということが言えます。

編集長

現金社会からビットコイン社会への移行には様々な課題があったのですね。

T.OGAWA氏

まさにそうですね。ここで押さえてほしいこととして、「7割の国民が銀行口座を持たない」米ドル現金社会からビットコインが日常的に使われる社会になるまでには2段階少なくとも理解する必要があるという点があります。

1段階目が、現金決済からキャッシュレス決済へ、そして(我々で言う「スマホ決済」のような)携帯電話を使った決済へと切り替える点です。日本は割とゆっくりキャッシュレス化への切り替えを行っていることもあり、2024(令和6)年時点でのキャッシュレス決済への比率は約42.8%です。ちなみにこの比率は、例えばクレジットカードがかなり小さなお店でも切れるお隣韓国や、スマホ決済でほぼ完結するお隣中国大陸等と比べてもかなり低い値です。

2段階目が、米ドルとビットコインとはレートが常に変わるものであり、そのレート変動は激しく、個人でリスク管理をできる先物・オプションなどのデリバティブ取引の使い方でも知らないと、本当に価値が目減りすることがあります。これは国側でリスク管理できるレベルではなく、例えばエルサルバドルのCHIVOでは当初1分だけレートを維持できる機能がありましたが、鞘取りが横行し途中で挫折しました。

編集長

デリバティブ取引の理解も必要ということですが、一般市民にとってはハードルが高かったのではないですか?

T.OGAWA氏

確かに「説明なしに」というのはハードルが高いと言えます。ここで言うデリバティブ取引としては「予め将来の価格をお約束しておいて、約束通りに交換する義務を負う」先渡(forward)や先物(futures)の取引、「予め将来の価格で売り買いできる権利を調達・提供する」オプション取引などが想定できるのですが、果たしてこれを「説明無しに」理解できるものでしょうか。そんなことはなく、大学の経済学部のレベルのお話です。ちなみに私は所属している経済学部の「学部の選択科目の」国際経済の講義の中で教えていますが、オプション取引の単元や先渡(forward)・先物(futures)の価格を決める「カバー付き金利平価説」の単元を小テスト行っても、一発で理解して解ける方はそんなに多くありません。

編集長

やはり、参入ハードルは高かったのですね。

T.OGAWA氏

実際に当時のビットコイン法定通貨化は、2021(令和3)年6月に導入を決定してから3か月後の9月に施行しているので、3か月しか無かったのですが、その間にリテラシー教育などは殆どされていない、という証言があります。仮にこのとき「リテラシー教育」が充分にされていれば大きく変わった部分もあったことでしょう。しかし、そうなっていないまま施行した当日:2021(令和3)年9/7(火)に不幸が襲います。

T.OGAWA氏

突貫工事も同然で作られたCHIVOにリリース直前でのトラブルが見つかり、9/7(火)の日付になった段階でAppleやGoogleなど主だった所でCHIVOをダウンロードできない事態が起き、この日だけでビットコインの価格が米ドル換算で19.7%下落しました。約2割です。

編集長

それは大きな価格変動ですね。その結果、市民の間でどのような反応がありましたか?

T.OGAWA氏

エルサルバドルの一般の在住者・市民・庶民はビットコイン法が施行されたこと自体は当時のTwitter(現:X)やニュースその他では知っていることでしょう。しかし、ビットコインとはそもそも何で、今回導入された仕組みがどういうものか全く教えられていない状況では、起きることは30米ドル相当のビットコインがばら撒かれた以上、CHIVO内にあるその30米ドル相当「と聞いている」ビットコインを「米ドルに換えて」ビットコインATM等で引き出す事でしょう。

T.OGAWA氏

しかし、そのときにビットコインの価格は約2割下がっていて、約24米ドルにしかなりません。しかもそれぞれの人が引き出す時間は微妙にずれているので、引き出した人によって米ドルで引き出せる金額や残額が変わってくるのです。こういう形で初めてビットコインに触れた場合、彼らはどう思うでしょうか。本来のビットコインの意義を知らずに、ただよく分からない(怖い)もの、と感じてしまうのではないでしょうか。実際に当時、ビットコインATMが放火され、「プラカードには『ブケレ、分かってくれ。エルサルバドルにビットコインは不要だ』の文字が躍る。」という報道がなされていました。

編集長

BTCではなくステーブルコインを選択した方が良かったのではないでしょうか?

T.OGAWA氏

仮にテザーのような「米ドルと価値を固定する仕組みを入れているステーブルコイン」を法定通貨化したのであれば、レートの変動は少なくともあまり気にする必要は無かっただけに、「価値が目減りした」ということで騒ぐこともなかっただろう、とは言えます。日本で言う所のPayPayを導入する位の形に留め、あまり反発も大きくは無かっただろうとは思います。

投資呼び込みのためのBTC法定通貨化

編集長

BTCを法定通貨化したもう一つの理由として「投資呼び込み」があったとのことですが、それについて詳しく教えていただけますか?

T.OGAWA氏

「BTCによる投資呼び込み」について、発展できない途上国共通の悩みの1つに「外国からお金・投資を呼び込む手段に欠ける」というものがあります。先に説明しましたように、エルサルバドルの平均成長率はあの「失われた30年」を含んだ日本の平均成長率より低い訳です。外資が呼び込めないと経済発展が本当にできません。しかし、外貨呼び込みは並大抵の方法では行きません。ブケレ大統領が出てくる前もいろいろな方法を試しては失敗し、ブケレ大統領の奇策としてビットコインは入れられました。

編集長

ビットコインを法定通貨にしている国は無かったのでしょうか?

T.OGAWA氏

正式な法定通貨としてはありませんでしたね。当時、ベネズエラがビットコインの一般的な利用が普及してましたが、2018(平成30)年にハイパーインフレを引き起こしたばかりで国民の1割以上が流出している状況、大統領選挙の結果に野党統一候補側が意義を申し立てていて、決して安心して社会実験できる状況とは言えない状況です。また、ベネズエラは決してビットコインを法定通貨にしている訳では無いので、通貨ボリバルが信用ならず「事実上」ビットコインが使われているだけです。

編集長

エルサルバドルがビットコインを法定通貨に加えるとどうなるのでしょうか?

T.OGAWA氏

エルサルバドルがビットコインを法定通貨に「加える」判断をすると、少なくともビットコインを利用した在り方の社会実験は「法的には」推奨こそされ、禁止はされない形になります。社会実験の場としてあと悩ましい点としてエルサルバドルには治安の問題がありましたが、別途ブケレ大統領は治安改善に努めていて、治安の問題も以前より心配する必要はありません。ビットコインを利用した社会実験が可能になるためにあと取引の束を承認する「マイニング」の部分がありますが、ブケレ大統領はエルサルバドルの火山を利用して「地熱発電で」マイニングを行う形を取っていました。国家によるビットコイン確保も行っていました。当時のエルサルバドルではビットコインは法定通貨ですから、「売らないと使えない」訳ではありません。

編集長

なるほど!

T.OGAWA氏

こういう形を取ることによってビットコインを通じて投資を呼び込む、ということがエルサルバドルのビットコイン法定通貨化の狙いの1つとしてありました。実際にエルサルバドルはビットコインを初めとする暗号資産やその周辺に寛容的な国、という印象が相まって、2025年(令和7年)1月にはテザー社のエルサルバドルへの本社設立にもつながったわけです。法定通貨に加えるのはビットコインであるべきだったか、という議論なども考えると、ビットコインを法定通貨で無くしたら直ちに終わってしまう訳では無い、という点も押さえておく必要があります。

エルサルバドルがBTC法定通貨化から後退した理由

編集長

エルサルバドルはなぜBTC法定通貨化から後退することになったのでしょうか?

T.OGAWA氏

IMF(国際通貨基金)などからの融資を引き出すためにやむなく後退した、というのが正しい訳ですが、この説明をする上でまず、エルサルバドルはビットコインを法定通貨から「排除した」という説明にはやや語弊がある、ということを押さえておく必要があります。2025(令和7)年1月のエルサルバドルのビットコイン法変更の前と後を押さえておきましょう。

T.OGAWA氏

ビットコイン法変更前でも厳密なことを言うと、法定通貨で通常想定される「民間部門がビットコインを決済手段として受け入れることが義務付けられていた」という部分にも語弊があります。当時の旧ビットコイン法第12条に関する条文が参考になります。

T.OGAWA氏

これはどういう条文なのかというと、第12条で「ビットコインの技術にアクセスできない人に対してはビットコインの使用を強制していない」ということになります。これは「法定通貨とは何か」という本質的な問題の根源にある「強制通用力」という概念に絡んでくるものです。もちろん当時も「12条の除外規定が、具体的にどのような人びと、法人に適用されるのか、明確な基準が不明です。携帯電話をもっていれば、7条の受け取り義務が生じてしまうのか?中央銀行(Banco Central de Reserva)及び金融制度監督庁(Superintendencia del Sistema Financiero)が細則を規定するはずですが、その点も不明です。」という指摘が中南米経済の専門家からなされていた部分があります。

編集長

専門家からも言及されていたのですね。

T.OGAWA氏

ありましたね。参考までに、当時の日本の参議院での答弁書を見るに、少なくとも旧ビットコイン法での条項からすれば、当時のエルサルバドルはビットコインを「法定通貨にした」という宣言はされていたとしても、資金決済法上の定義における暗号資産の定義で想定している「法定通貨は暗号資産には含めない」という点にビットコインは該当しないので外貨とは日本の法律上扱わず暗号資産と扱う、ということになる点を押さえる必要があります。

T.OGAWA氏

今回の2025(令和7)年1月の法律の変更により、明確に「民間部門がビットコインを決済手段として受け入れることが今後は任意となる。」訳ですから、ビットコイン法定通貨化という観点では明らかに後退ですが、「今回の法改正により」明示的に法定通貨から除外したと言えるのか、という点は少し注意深く扱う必要がある訳です。

編集長

IMFはなぜビットコインの法定通貨化に懸念を表明していたのでしょうか?

T.OGAWA氏

ビットコインの持つ「疑似匿名性」にあります。ビットコインにはどういう取引をしたのかが全て公開される仕組みになっています。しかし、このIDの人はこう取引をしたと分かるだけで「誰の」ものなのか、については少なくとも完全には明らかになっている訳ではありません。そのため、犯罪利用や資金洗浄などの際に追跡が困難な側面があり、それを懸念したと言われています。また、ビットコインは他の通貨と違い、中央銀行のような管理組織がありません。しかもネットさえつながれば世界中どこからでもアクセスできるわけですから、1国の国内だけで対処ができる訳では無いだけでなく、仮にここでエルサルバドルが「法の穴」のような場所に公式になってしまった場合にはIMFや世界銀行等としては困るから、ビットコインを法定通貨にする限り融資しない、という姿勢を見せていた訳です。

編集長

なるほど、そこに懸念点があったのですね。

T.OGAWA氏

ブケレ大統領は元々経済畑の人ですから、IMF等の融資が受けられなくなるのは困る、だから今回IMFの融資で課された条件としてビットコイン法を後退させた、というのが実際の所と言えるでしょう。なお、この後もブケレ大統領はビットコインの購入(備蓄)を継続している所からすると、完全に排除した、というのは少し語弊があるように思われます。

BTCの法定通貨化が通貨価値に与える影響

編集長

BTCの法定通貨化は、BTCや従来通貨(ドル・円など)の価値にどのような影響を与える傾向にありますか?

T.OGAWA氏

単純に答えるなら、ビットコインの法定通貨化によりビットコインの価格が「定性的には」上がりますが、その規模感という意味では通常は従来通貨の価値が大きく変わるとは考え難いです。ビットコインの価格が上がる部分は「一時的」と思える位に影響は小さく、「定量的には」その大きさは余程大きな国が採用でもしない限り小さいと言えるでしょう。

編集長

法定通貨化による従来通貨への影響はそこまで大きくないのですね。

T.OGAWA氏

法定通貨化する国の大きさにもよりますが、一般にはビットコインの法定通貨化にはビットコインの価値を「定性的には」上げる働きがあります。しかし、それは「使い易くなる環境が増えて来る」からであり、法定通貨になったから直ちに使い易くなるか、使われる状況が増えて来るかによって影響の大きさは変わります。定量的にはその法定通貨として採用する国にもよります。一般的には「一時的」とでも思える位に他の要因・変動の方が大きいと言えるでしょう。ビットコインの価格変動はそれだけ普段から激しいものですから、中には誤差の範囲内に収まる場合も出て来るでしょう。

編集長

ビットコインを法定通貨化したことのある国はありますか?

T.OGAWA氏

これまで、ビットコインを1度でも法定通貨化したことのある国はエルサルバドルと中央アフリカ共和国で、世界的には経済規模が必ずしも大きくない国が中心です。また、その方法も既存の法定通貨を全て廃してビットコインを国の唯一の法定通貨にする訳では無く、「既存の法定通貨などを残したまま」ビットコインを「第2の法定通貨」にする、という形のため、それだけ使われ「易くなる」ことはあっても使われる量が増える影響は限定的になります。そうすると、ビットコインの法定通貨化でビットコインの価格が大きく上がるには、「この国が」と驚くような規模の国である必要はあると言えるでしょう。

編集長

であれば、文化として定着させるには課題が多そうですね。

T.OGAWA氏

課題は多いと言えますね。本格的に広がるには外の人からも「使い易い」国として認識する必要があり、そうでない場合には必ずしも大きくは上がることは無いでしょう。少し極端な例を考えてみましょう。2025年(令和7年)3月現在ビットコイン保有額が第3位の国はDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)であることが報じられました。これはエルサルバドルやブータンよりも多く、その理由としてハッキングなどの不正流出などの収益をビットコインにした点に関しても報じられている訳です。しかし、仮にDPRKがビットコインを法定通貨に加える選択をしたとして、あれだけの監視国家で外の国から使い易くなる国と認識するかと言えばそのようなことは考え難いものがあります。

T.OGAWA氏

とはいえ法定通貨とまでは行かなくても「ビットコインを利用した取引を法的に認める」国が増えるだけでも「使い易くなる」効果は或る程度得られる可能性があり、その分だけビットコインの価格が上がる可能性は言えるでしょう。但しそれも程度問題であり、定量的にどれ位上がるとまでは言いにくい部分はありますし、少なくとも一時的にとしか思えない位に他の影響が大きいこともお伝えする必要があります。

編集長

もし、現代においてビットコインが法定通貨化された場合、他の通貨に影響は及びますか?

T.OGAWA氏

ビットコインを法定通貨化することで他の法定通貨(米ドル・円など)への影響ですが、「ビットコインに対する」各通貨の価値は相対的に下がる部分はあるでしょうが、「他の法定通貨間の」価値への影響はそこまで大きく動くとは「現状では」考え難いものがあります。大きな国が色々ビットコインを法定通貨に採用して「米ドルの基軸通貨としての地位が揺らぐ」位まで行けば米ドルの価値が下がる、ということもあるでしょうが、現状そこまでの期待は難しいでしょう。最初に入れたエルサルバドルが「失敗」したと認識され、ビットコインの法定通貨化は「誤りなんだ」と把握されてしまっている限り、そのイメージを払拭できる形でないとあざ笑われるだけになってしまいます。

T.OGAWA氏

仮にビットコインの法定通貨化での大きな効果を期待するなら、日常的に多くの人がビットコインで取引をする「場の整備」が出来る状況こそが鍵であり、そういう状況でないと外からビットコインを利用した実験場としての利用とはし難い部分があります。そのためには法的に認めることに加え、多くの人が使えるような環境の整備と使えるようにするための「リテラシー教育」の実施、とりわけ「第2の」法定通貨となる場合には価格に対する変動リスクを自分で管理できるための先物市場などの整備、そして安心して参加できるだけの「場所としての安全性」が求められます。現状、ビットコインの法定通貨化だけではそこまでのことは行かず、それに近い状況を限定的に実現しようとしたエルサルバドルは「リテラシー教育」や「先物市場の整備」という部分では出来ていなかった訳ですから、あまり大きな効果を期待するのは難しいように思います。

編集長

リテラシー教育の重要性について詳しく教えていただけますか?

T.OGAWA氏

かしこまりました。まず、注意してほしいのは「リテラシー教育」に何が必要かはその国でどういう形でお金が使われていたのかにもよる、という所があります。社会実験として行えるようにする上では、人々がビットコインを日常的に使う気になることが必要ですが、そのときの前提知識は国や時代などによっても変わってくる訳です。

T.OGAWA氏

先のエルサルバドルでは元々銀行口座を持つ人が少ない米ドル現金社会だった訳ですから、現金社会から携帯電話で決済できる形に移行するためのリテラシー教育と、米ドルとビットコインの価格変動に関する為替リスクのような教育が必要だったはずです。しかし例えば中国大陸のようなスマホ決済が一般に既に浸透しているような社会であればスマホ決済に関するリテラシー教育は必要ないと思われます。その一方で為替変動リスク等はその対処法も含めてしっかり教育を入れないといけなくなるでしょう。参考として日本で初めて交通系ICカードのSuicaが導入されたとき、「タッチアンドゴー」という掛け声と共に特徴的なCMで多くの人に使い方を見てみてもらったということがありました。

BTCの法定通貨化は世界的に広がるか

編集長

BTCの法定通貨化は世界的に進んでいくと考えられますか?

T.OGAWA氏

一言で言うなら進んではいかない、となるかと存じます。複数の観点から説明を致します。まず、「BTCの」法定通貨化と「(ステーブルコイン関連も含めて)暗号資産関連全般で」どれかの法定通貨化は分けて議論をする必要がありますが、少なくとも「ビットコインの」法定通貨化は進まないでしょう。

編集長

それは何故でしょうか?

T.OGAWA氏

理由はIMFや世界銀行の反対に応じて、世界で最初に法定通貨に加えた中米エルサルバドルが3年半で後退したことにあります。日本も例外ではありませんが「先例主義」という言葉があるように、「過去の事例を基に」判断する国というものは必ずあり、広がるためにはそうした先例主義の国を取り込める成功事例が必要です。最初に導入した国が3年半で早々と後退したとなれば、「ビットコインを法定通貨にするのは失敗で、良くないことだな」という印象を世界各地では持ってしまうことになります。こういう状況でビットコインの法定通貨化を実施することは無いでしょう。

T.OGAWA氏

元々ビットコインの法定通貨化とは「既存の法定通貨を廃してビットコインを唯一の法定通貨としてビットコインの直接流通をさせる」イメージが多かった筈です。1国だけの場合には既存の法定通貨と変動為替レートの関係になるのですが、その場合は通貨・貨幣発行量(今の日本だとマネーストック)の調整こそが短期的なGDP等の増減つまり景気対策の効果を持ちます。しかし、ビットコインは本質的に管理団体としての中央銀行が存在しません。そのため、「国内に存在・流通するビットコインの量」を政策で調整する、ということが出来ません。従って、景気対策の手段が無くなり、不景気になったら長期的な構造改革が進むまでずっと不景気のままとなってしまいます。ある種こうしたことの打開策として米ドル直接流通の国が第2の法定通貨として入れた、という部分があったわけですから。

編集長

他にも問題や課題はありますか?

T.OGAWA氏

もし、「世界の多くの国で一斉に」既存の法定通貨を廃してビットコインを唯一の法定通貨にした場合、金本位制のように「ビットコインの持つ発行上限」に左右されてしまい、お金の量が(経済の発展に応じて調整できず)足りない故に世界的な経済発展が止まってしまう、という問題を抱えます。そのため、「既存の法定通貨を廃してビットコインを唯一の法定通貨にする」という選択には困難が付きまとう、という部分がございます。

編集長

「強制通用力」という点でも課題があると言われていますが、どういうことでしょうか?

T.OGAWA氏

この質問に答えるために「強制通用力」とは何か確認しましょう。強制通用力とはただのお金(貨幣)と通貨・法貨とを区別する観点であり、それで代金などの支払いに使われたら受け取らなければならない、という法的な義務です。第2の法定通貨とすることで「強制通用力」に関する問題も一部回避できるものがありました。日本円の紙幣(日本銀行券)は法定通貨(通貨・法貨)に当たる訳ですが、その義務は日本国内に留まる訳であり、例えばUSAで「日本円の紙幣により支払い」をしようとしたとしても別に相手側は受け取る義務はありません。

T.OGAWA氏

他にもクレジットカードやキャッシュレス決済などが使えない場所は普通にある訳ですが、日本円の現金紙幣(日本銀行券)が使えないことは日本国内では日本の法律上は許されず、「現金お断り」を設定したい場合にはお店の前に「現金不可」を明示し、そのお店に入ってくる際にはその同意をしてから入ってくる想定にする必要があるとされます。(ある弁護士のサイトなどを参照しました。)

編集長

電子的な支払い手段であるBTCにも同様の強制通用力を適用するには特別な問題があるのでしょうか?

T.OGAWA氏

そうですね。現金紙幣の場合には基本的には対面なら「渡せば受け取れる」ので、法的な義務だけ決めておけば済みます。しかしビットコインなどの「電子的な」手段の場合にはそれ以外の点にも注意が必要になります。受け取り手が確実に「受け取れるか」という問題です。

T.OGAWA氏

(1)受取の手段を「受け取り手が持っていない」場合
(2)受け取れる機材等において機材の故障やバッテリー切れのように「その受け取り手だけ一時的に受け取れない事情が出た」場合
(3)地域的あるいは全国的な通信障害や大地震での電力不足などのように「地域全体で一時的に受け取れない事情が出た」場合

上記の3通り位に分けられます。このうち(1)は受け取れる機材等を用意する法的な義務を設定することになりますが、QRコードやペーパーウォレット等のように「受け取れる手段を全店に提供・補助」などした上での義務としないと営業の自由を阻害する危険性もあります。(2)は「強制通用力」に一切の例外を設けないなら「解消するまで営業してはならない」等の形にする必要があり、他にも予備の機材やバッテリーなどを備える法的義務を課すなどの形が考えられます。(3)も「強制通用力」に一切の例外を設けないなら「解消するまで営業してはならない」等の形にする必要があり、それを考えると余り現実的ではなく例外を設けることが現実的な場合もあるでしょう。

編集長

エルサルバドルにおける強制適用力はどう作用されていたのでしょうか?

T.OGAWA氏

中米エルサルバドルにおいてビットコインを「第2の」法定通貨に加えるという在り方ではこの「強制通用力」に関する設定を実は一部緩めていました。当時でも旧ビットコイン法第12条を改めて思い起こすと、「ビットコインの技術にアクセスできない人に対してはビットコインの使用を強制していない」訳ですから、厳格な強制通用力を課している訳ではありません。先の(1)に対して義務を課していないと捉えれば、法定通貨と呼べる在り方かは疑問符が付く部分ではありますが、携帯電話の普及率が8割で「圧倒的多数派ではあるがほぼ全員とまでは言えない」エルサルバドルのような国に対しても導入することが出来、少なくとも「導入する国を広げる」手段ではあったとは言えるでしょう。それなりに考えられた手段ではあったわけです。

編集長

BTCの法定通貨化が広がらない理由は他にもありますか?

T.OGAWA氏

IMFや世界銀行がビットコインの法定通貨化に反対した理由にもつながりますが、1国で管理は本質的にできないこともあり、犯罪利用や資金洗浄を「原理的に」止める手段が無いことにあります。

T.OGAWA氏

正直、現金も犯罪利用などにも数多く使われてきたこともあり、「ビットコインだけ」犯罪利用抑止を課すのは不公平と感じる方もいるかもしれません。しかし、新たに制度を導入する段階で「明確に抜け穴があると知られている」制度を入れようとするということは、その抜け穴から犯罪の温床になることが分かり切っている訳ですから、その抑制策に加えて「そのデメリットを超えるメリットでも提示できない限りは」多くの国の賛同は得にくい訳です。

編集長

技術的な面から見たBTCの課題はどのようなものがありますか?

T.OGAWA氏

ビットコインは暗号資産の中でも事実上「延命段階にある」という面があります。元々ビットコインは今より10年以上前の2008(平成20)年頃に提案された仕組みが基になっている部分があり、現在ではビットコインより遥かに優れた仕組みを持つ暗号資産はその後に数多く開発されています。

編集長

他にも取引時間にも時間がかかるなどの課題もありますよね?

T.OGAWA氏

その通りです。元々ビットコインは取引を承認するのに10分近く通常でもかかり、他にも1度に承認できる取引の量、ブロックに入る件数も決して多くありません。例えばVisa等で都度処理している件数に比べれば遥かに少ない訳です。この問題は2017(平成29)年頃には既に指摘されていたことであり、承認を優先させるには手数料の追加も必要になります。

T.OGAWA氏

現状ビットコインが延命できているのは、チェーンに書き込むのは後に回して差し引きだけにしよう、というライトニング技術が進展したからです。普段使いという部分では確かにそれでも良いのかもしれませんが、長く続くチェーンに書き込まれて、そのチェーンが最も長いものという淘汰を経て初めて本格的に取引として「事実上」確定することを考えれば、ビットコインを法定通貨にする、という選択は必ずしも安心できる選択とは言えないでしょう。

編集長

ビットコインには資源的な問題もあると聞いたことがありますが本当ですか?

T.OGAWA氏

その通りです。Proof of Workを採用しているビットコインを存続させる上では世界中から多くの計算機資源の投入が無いとマイニングは安心できるものになりません。近年AI(人工知能)に計算機資源は取られていることもあり、このまま継続できるとは限りません。また、その利用には多くの電力が必要であり、2021(令和3)年には中国大陸から追い出されたマイニング業者がカザフスタンへ行き、カザフスタンで深刻な電力不足を招く事態を引き起こしたこともありました。エルサルバドルはマイニングの電力に火山の地熱を使っていたのでまだましですが、必ずしも世界中でマイニングに使われている多くの電力が再生可能エネルギーで賄えている訳では無く、温室効果ガスの面も指摘されます。加えて計算機資源の利用には「冷却水」等の部分も必要なため、水資源の問題も出て来ます。

編集長

送金面でも大きな課題がありそうですね。

T.OGAWA氏

国内外の送金や日常的な決済に使うにはステラルーメンのようにビットコインより優れた暗号資産も数多く登場している中で、「いま」ビットコインを法定通貨に加える、という選択が必ずしも賢明とは言えません。それでいてビットコインの現状持つ既存の法定通貨との価格変動の激しさを思えば、「いま」ビットコインを法定通貨に加える国が増えて来るとは考えにくい環境にあります。

編集長

ステーブルコインの法定通貨化の可能性についてはどうお考えですか?

T.OGAWA氏

「価値の安定が図られた(法定通貨担保型)ステーブルコインなら」法定通貨に加えられる可能性はあると私は考えています。とりわけ、テザーのように米ドルに価値を連動させたステーブルコインなどは可能性があると言えるでしょう。かつて軍事クーデターにより政権を追われたミャンマーの旧民主化政権の残党が作ったミャンマー亡命政府NUGはテザーを公式通貨(法定通貨)に加える決定を2021(令和3)年に行っています。

編集長

可能性があるということは、今でも動きがあるということでしょうか?

T.OGAWA氏

現状、「テザーの法定通貨化」について動きについてはあまり見られてはいません。しかし亡命政府である以上、実際に政権を担えている状態ではないので、実際に国の政府がテザーを法定通貨に加える設定をした場合はどうなるかという評価は2025(令和7年)4月現在ではできません。

T.OGAWA氏

とりわけ、通貨の電子化・オンライン化は利便性その他を考えてもいずれ必要になる項目ですが、CBDC(中央銀行デジタル通貨)のリテール型では犯罪利用防止などの観点から法の適用の及ぶ範囲内に限る形になることが一般的です。世界で最も流通している米ドルはUSA(アメリカ合衆国)1国で通貨管理をしている以上、仮に米ドルのCBDC(リテール型)が登場してもそれはUSA域内に限られるわけです。「世界で共通に使える電子的な米ドル」という観点で言えばCBDCとは別の形である必要があり、テザーのような世界的に米ドル連動型ステーブルコインと知られているものを採用する国が出てきて増えてくれば解決する訳です。テザーは「USAでテザーを法定通貨に加える」などの事でも起きない限りUSA政府が管理している訳では無いので、あるとき急にUSA政府の方針転換で使えなくなる、という可能性もかなり抑えられます。それを見越してか、テザー社はテザーを新興国での利用などに想定してる部分があり、 USAでは別のステーブルコインを計画しています。

投資家はビットコイン法定通貨化の動きをどう捉えるべきか

編集長

個人投資家は、そうした暗号資産の法定通貨化の動きをどのように捉え、どのように投資判断を行うべきでしょうか?

T.OGAWA氏

まず何より投資は自己責任で、ということはお願いをした上で、真っ先に行ってほしいのは、その暗号資産やステーブルコインなどがどういう理念に基づいて作られたのかを確認してほしいという点です。仮にこの後何かの暗号資産の法定通貨化が採用された場合に、その理念と整合的か、という部分を確認する重要性は高いと言えるでしょう。整合しない場合、必ずしもうまく行かない可能性を考える必要があります。

編集長

他にも確認すべきことはありますか?

T.OGAWA氏

次に確認してほしいのが、その法定通貨化は「どういう方法で」という部分です。既存の法定通貨を廃してビットコインを唯一の法定通貨にするのと、既存の法定通貨を残してビットコインを「第2の」法定通貨にする場合ではその効果がかなり大きく異なります。強制通用力の度合いによっても変わります。そのための環境整備や教育をどの程度行うかによっても大きく変わります。かつてのエルサルバドルについてはビットコインを「第2の法定通貨」とし、強制通用力は「事実上」外した部分があり、環境整備という意味ではかなり強力に進めた一方、ウォレットについては整備を急ぎ過ぎてトラブルになった訳であり、リテラシー教育等は出来ていなかったからこそ一般浸透はせず、ビットコインATM等が燃やされるトラブルが起きていた訳です。

まとめ:法定通貨としてのBTCの未来

本インタビューでは、専修大学の小川健教授に、エルサルバドルがBTCを法定通貨化した背景とその後の展開、そして暗号資産の法定通貨化の未来について詳しく解説していただきました。

エルサルバドルのビットコイン法定通貨化は、国際送金の手数料削減と投資誘致という明確な目的を持っていました。しかし、十分なリテラシー教育や価格変動リスク管理のための市場整備が不足していたこと、そしてIMFや世界銀行からの圧力などにより、3年半で政策の一部後退を余儀なくされました。

ビットコインのような価格変動の激しい暗号資産の法定通貨化は世界的に広がる可能性は低いものの、テザーのような米ドル連動型ステーブルコインが法定通貨として採用される可能性は残されています。特に「世界で共通に使える電子的な米ドル」の需要は存在しており、今後の動向が注目されます。

投資家にとっては、暗号資産の理念と法定通貨化の方法、そして実際の使いやすさを基準に投資判断を行うことが重要です。単に法定通貨化されるからといって価格が上昇するとは限らず、特にステーブルコインの場合はその価格変動はほとんど期待できないことを理解しておく必要があります。

暗号資産の法定通貨化は未だ試行錯誤の段階にありますが、通貨のデジタル化が進む中で、どのような形で発展していくのか今後も注視していく必要があるでしょう。なお、本記事は投資助言ではありません。投資はご自身の判断と責任で行うようお願いいたします。