短期投資と長期投資の違い〜確かな資産形成への戦略

2025年に入ってから、投資市場は大きな動きを見せています。特に株式市場の変動により、短期的な投資に注目が集まっています。

しかし投資において、短期的な利益を追うだけでなく、長期的な視点を持つことも重要です。市場の変動が激しい中で、将来に備えるためにはどのような戦略が必要なのでしょうか?

そこで今回は、東京経済大学の石田成則教授にお話を伺い、短期投資と長期投資の違いや、長期投資におけるリスク管理や成功のポイントについて詳しく解説していただきました。

石田 成則
東京経済大学 教授

1991年慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程修了後、1991年~2015年まで山口大学経済学部の助教授と教授を経て、2015年から関西大学政策創造学部教授。2025年4月より現職。2009年3月に早稲田大学にて商学博士を取得。所属学会は、日本保険学会(前理事長)、生活経済学会(理事)、日本年金学会、日本労務学会、日本ディスクロージャー研究学会など。


短期投資と長期投資の本質的な違い

編集長

石田先生、短期投資と長期投資の本質的な違いはどのようなものでしょうか?

石田 成則氏

実は、短期投資と長期投資は、期間の相違だけを意味するわけではありません。言ってみれば、株式の短期的売買で利益を出そうとする投資姿勢(タイミング投資)と、将来に向けて生活資金などを準備するための投資、という違いがあります。長期投資では、短期的な株式の値動き、短期的な運用収益を過度に重視しないことになります。

編集長

長期投資では収益を気にしないということでしょうか?

石田 成則氏

いいえ、長期投資でも採算(投資による運用収益など)を度外視しているわけではありません。こうした投資姿勢をとることで、一国の経済が成長したり、個別の会社の技術革新や新商品開発などにより、長期で見ると確実に資産が増えるケースが多くなります。短期的な市況に左右されることなく、着実に資産を増やすことには適していることになります。

長期投資が個人の資産形成において重要な理由

編集長

長期投資が個人の資産形成において重要な理由を教えていただけますか?

石田 成則氏

実は、投資の期間を長くとることで、様々なメリットを受けることができます。それには、分散投資、ドルコスト平均法、72の法則、税制優遇措置、などがあります。分散投資は長期投資だからこそ享受できるメリットであり、リスクを抑えながらリターンを高めることができます。ドルコスト平均法は、毎月一定金額を投資することで、株式などの値が下がったときに多くの株式を購入し、値が上がった際には、購入数を減らす投資の手法です。値が安いときに購入した多くの株式は将来的に高い運用収益を生む源泉になりますし、もともとの値が高い同じ株式は、それ以上の値上がりが期待できないので少なくて良いのです。この投資法の有効性は、どの時代のどの国にも当てはまることになります。

編集長

「72の法則」について詳しく教えていただけますか?

石田 成則氏

長期投資について語るときに、よく「72の法則」が登場します。これは非常に便利な法則で、「72の数値を運用する金利で割ることで、資産が倍増する期間」を教えてくれます。1年間の銀行口座の預金金利が現在のように0.1%であると、720年も掛かることになります。それが運用好調な株式の収益率(預金の金利にあたる)が4%だと、18年で資産倍増するわけです。20年も掛からずに倍増するとなると嬉しくなります。ただこれはあくまでも目安に過ぎません。預金金利や株式の収益に税金が課せられると、その分、実質的な金利や収益は低下してしまいます。また、投資に係る手数料も同様です。そのために、税金や手数料の多寡もしっかり確認しなければなりません。

編集長

長期投資に関連する税制優遇措置についてはどうでしょうか?

石田 成則氏

長期投資を促すために、税金が軽減されるケースもあります。その主な対象商品が、NISAであり、iDeCoも同じです。NISAを活用して長期投資をすれば、運用収益に税金が掛かりませんし、またiDeCoではこれに加えて、投資金額である掛金にも税金が掛かりません。こうした税制優遇措置には、お金持ちを過度に優遇しないように上限金額(年間非課税限度枠)が定められていますが、その範囲内に投資額や掛金の金額を抑えれば、他の金融商品と比べて断然有利に資金を増やすことができます。節税された金額自体も元手に加算されていくために、資産が倍増する期間もグンと短くなります。節税効果を確認するのも簡単で、通常は運用収益に20%の税金が掛かるところ、NISAを利用すれば、税金を払わなくてすみます。例えば、100万円投資して年率4%とすると、通常商品では、運用収益の4万円に20%の税金が課されて3万2千円しか手元に残りませんが、NISAを活用すれば4万円まるまる手元に残り、つぎの投資にも回されて長期的にお金が増えていきます。

編集長

長期投資を行う際の注意点はありますか?

石田 成則氏

注意点としては、自分で調べても手数料がよくわからないことや、税の優遇措置がときどき変更されることです。前者については、運用の専門家に尋ねることが早道です。後者については、アンテナを張って、関連する情報をアップデートすることが大切です。

若い世代が今から取り組むべき資産形成の考え方

編集長

若い世代が今から取り組むべき資産形成の考え方について教えてください。

石田 成則氏

長期投資では、リスクとリターンのバランスを取ることが大切ですが、自身の目的や資産・収入状況にあわせて、個々の金融商品を選択することは大変な作業です。そこで運用をプロに任せるのもひとつの賢いやり方です。とくに若いうちや投資に不慣れな方にとっては有効ではないでしょうか?まとまった資金であればラップ口座が利用できますし、別の方策には投資信託を活用した運用があります。

編集長

投資信託について詳しく教えていただけますか?

石田 成則氏

投資信託の仕組みは少し複雑ですが、運用のプロ集団である投資信託会社があり、そこを通じて資産運用することになります。ただこうした会社と直接やり取りするのではなく、郵便局、銀行そして保険会社等の窓口を通じて契約・購入することになります。その特徴として、小口投資、分散投資があります。投資信託では、複数の内外の株式や債券を対象に投資しますが、それらを自動的に組み合わせることで、少額の資金でも複数の金融商品に一度に投資することができます。内外の株式と債券を組み合わせることで、たとえば、「リターンも高いけれどもリスク、投資成果のブレ幅も大きいもの」から、「リターンは単独の株式などに比べると落ちるものの、リスクを低く抑えることができる商品」までバラエティに富んでいます。ですから、損失の上限額などを大まかに予測しながら目標の期間で投資することができます。もちろんただお任せするだけではなく、中途で変更や解約することもできます。少額の資金で、自らのニーズに合わせて、複数の投資対象を組み合わせた金融商品が投資信託になります。

編集長

投資信託を利用する際の注意点はありますか?

石田 成則氏

このように投資初心者にも向いている金融商品ですが、気を付けるべき点もあります。ひとつはその手数料です。複数の金融機関が関連するために、どうしても手数料が割高になりがちです。またそれがどの時点でかかるかも大事で、購入当初の場合も解約時の場合もあります。こうした手数料の多寡と体系をしっかり確認しなければなりません。もうひとつは、プロの助言を鵜呑みにしてしまうと、ときに損をしたら、損したことの責任転嫁しようとする気持ちも生まれてしまいます。そこで、購入当初に提示される、投資信託の商品や仕組みの説明書=目論見書を、自分なりに理解できなければなりません。これがなかなか厄介で、投資信託個々の投資方針や運用状況、そして成果指標などが一通り理解できることが望ましいです。もちろんそのポイントをプロに聞くこともできますが、自己責任をもった運用姿勢であるためには、事前にポイントを確認し、自ら納得して投資信託を選ぶ姿勢が大事です。ただこの点も安心できるのは、投資信託を評価する機関も存在しており、こうした機関が投資信託毎に星印で、リスクとリターンのバランスの程度を示していることが多いです。レストランの星の数と同じようなものですね。簡略化すれば、星の数が多いほど、味は保証されるけどもお値段が高くなるようなものです。

長期投資と短期投資を適切に組み合わせる方法

編集長

長期投資と短期投資を適切に組み合わせる方法はありますか?

石田 成則氏

短期投資と長期投資はともに重要な投資戦略ですが、それぞれの強みを活かすバランスが大切です。資産全体を見渡したとき、まずは老後や将来の大きな支出に備えるための安定した長期投資の基盤を築くことが優先されるべきです。その上で、余裕資金があれば、より積極的なリターンを狙った短期投資に一部を割り当てることが考えられます。

編集長

具体的な配分比率などはありますか?

石田 成則氏

一般的な目安としては、「100から年齢を引いた数値」を株式などのリスク資産の比率とし、残りを債券などの安定資産に配分する方法があります。例えば30歳であれば70%をリスク資産に、60歳であれば40%をリスク資産に配分するといった具合です。ただし、これはあくまで目安であり、個人の収入状況、家族構成、将来設計などによって最適な比率は変わってきます。何よりも自分自身の生活設計や投資目的に合わせた配分をすることが重要です。

市場変動時における投資判断の重要性

編集長

市場が大きく変動しているときの投資判断について、アドバイスをいただけますか?

石田 成則氏

市場の大きな変動時こそ、投資家の真価が問われるときです。急な暴落時には多くの人が感情的に売却してしまいがちですが、長期投資の視点を持ち続けることが重要です。むしろ、市場が下落しているときこそ、基本的に健全な企業の株式や投資信託を割安に購入するチャンスと捉えることができます。

編集長

パニック売りを避けるためのコツはありますか?

石田 成則氏

パニック売りを避けるためには、あらかじめ自分自身の投資方針や売却基準を決めておくことが効果的です。例えば「20%以上の下落でも保有を続ける」といったルールを事前に決めておけば、感情に左右されにくくなります。また、定期的に市場や経済のニュースに触れることで、変動の背景にある要因を理解する習慣をつけると、冷静な判断ができるようになります。さらに、投資資金は生活に直ちに必要のない余裕資金にすることで、急な換金の必要性を減らし、時間をかけて市場回復を待つことができます。

まとめ:確かな資産形成のための長期投資戦略

今回のインタビューでは、東京経済大学の石田成則教授に、短期投資と長期投資の本質的な違いや、長期投資が個人の資産形成において重要な理由について詳しく解説していただきました。

長期投資は単に投資期間が長いだけでなく、将来に向けた生活資金の準備という目的を持ち、短期的な値動きに左右されない投資姿勢であることが分かりました。分散投資やドルコスト平均法、72の法則、さらにはNISAやiDeCoといった税制優遇措置を活用することで、着実に資産を増やしていくことができます。

若い世代や投資初心者にとっては、投資信託などを活用してプロの力を借りながら、自己責任の範囲内で納得できる投資を行うことが重要です。手数料や税制の確認、目論見書の理解など、事前の準備と情報収集を怠らないことも成功への鍵と言えるでしょう。

長期投資と短期投資をバランスよく組み合わせ、市場変動時にも感情に流されない冷静な判断ができれば、より効果的な資産形成が可能になります。この記事が読者の皆様の投資戦略を考える上での参考になれば幸いです。

なお、本記事は投資助言ではありません。投資はご自身の判断と責任で行うようお願いいたします。