ETFって何?投資初心者にもやさしい資産形成の新常識とその影響

将来の資産形成に不安を感じる人が増える中で、「ETF(上場投資信託)」という投資商品が注目を集めています。しかし、ETFとは何か、なぜ人気なのかを正しく理解している人はまだ多くありません。

そこで今回は、ETFの基本から社会的な影響までを明らかにするため、大東文化大学の郡司先生にお話を伺いました。

この記事を読むことで、ETFの仕組みや初心者にとってのメリット、さらには経済や企業経営への影響まで、幅広く理解することができます。

資産形成に関心のある方はもちろん、経済のしくみに興味がある方にも役立つ内容です。

郡司 大志
大東文化大学 経済学部 教授

法政大学経済学部経済学科卒。法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士後期課程修了。博士(経済学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、東京国際大学経済学部客員講師(一号)などを経て、現職。専門はマクロ経済学、金融政策、金融論。

主な著書に『マクロ経済学への招待』新世社(2024年11月)、主な論文に “Impact of the Kuroda Bazooka on Japanese households’ borrowing intentions,” Japan and the World Economy 69, 101240, 2024(単著)、”Did the BOJ’s negative interest rate policy increase bank lending?” The Japanese Economic Review 76, 91-120, 2025(単著)、”Do reserve requirements restrict bank behavior?” Forthcoming in the Review of Financial Economics(三浦一輝氏との共著)がある。


ETFとは?なぜ今注目されているのか

編集長

郡司先生、近年ETFへの注目が高まっていますが、そもそもETFとはどのようなもので、なぜ今これほど注目されているのでしょうか?

郡司 大志氏

ETF(上場投資信託)とは、「Exchange Traded Fund」の略で、株式市場に上場されている投資信託のことを指します。通常の投資信託と同様に、さまざまな資産(たとえば株式や債券、不動産、コモディティなど)をひとつのパッケージにまとめて運用し、投資家はそのパッケージ全体に投資することができます。しかしETFは、証券取引所を通じてリアルタイムで売買できる点が最大の特徴です。株式と同じように、価格が市場の需給によって変動し、好きなタイミングで売買できるという流動性の高さが大きな魅力です。

編集長

なぜ近年、これほどETFが人気になってきているのでしょうか?

郡司 大志氏

近年ETFがこれほど注目されている背景には、いくつかの理由があります。まず、手数料の安さが挙げられます。一般的に、ETFはインデックス(たとえば日経平均株価やS&P500など)に連動する運用を行う「パッシブ型」が多く、運用コストが低く抑えられているため、長期的な資産形成を考える投資家にとっては非常に効率の良い商品です。また、分散投資の効果も得やすく、1つのETFを購入するだけで、複数の企業や資産クラスに間接的に投資することができるため、リスクを抑えつつリターンを狙うことが可能です。

編集長

他にも社会的な背景はありますか?

郡司 大志氏

近年では個人投資家の資産形成に対する関心の高まりや、老後資金への不安、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった税制優遇制度の普及もあり、ETFの需要は一層高まっています。加えて、テクノロジーの進化により、スマートフォンを使って簡単にETFを売買できるようになったことも、裾野の広がりを後押ししています。

ETFが投資初心者にとってのメリット

編集長

投資を始めたばかりの方にとって、ETFはどのようなメリットがありますか?個別株との違いも含めて教えてください。

郡司 大志氏

まず、ETFの最大のメリットのひとつは分散投資が簡単にできることです。たとえば、日経平均株価に連動するETFを1口購入すれば、日本の代表的な225社にまんべんなく投資しているのと同じ効果があります。個別株で同じような分散をしようとすれば、多くの企業の株を買わなければならず、それだけ資金も手間もかかってしまいます。ETFなら、その手間を省きつつ、リスクを分散することができるため、初心者でも安心して投資を始めやすく、株式と同じように取引できるという利便性もETFの特徴です。

編集長

投資信託との違いはどのような点ですか?

郡司 大志氏

通常の投資信託は一日に一度、基準価額が決まってからの取引となりますが、ETFは市場で株式のようにリアルタイムで価格が変動するため、好きなタイミングで売買できます。これは市場の動きを見ながら柔軟に対応できるという意味で、初心者にとっても大きな安心材料になります。

編集長

コスト面ではどうでしょうか?

郡司 大志氏

手数料が比較的安いということが挙げられます。ETFは多くの場合、パッシブ運用(インデックスに連動)をしており、アクティブ運用の投資信託よりも信託報酬が低く抑えられていることが一般的です。長期的に資産を増やしていくうえでは、こうしたコストの差が結果に大きく影響してくるため、低コストのETFは初心者にとって合理的な選択となります。

編集長

個別株との違いについてもお聞かせいただけますか?

郡司 大志氏

個別株は特定の企業の株を買うことになるため、その企業の業績やニュースに大きく影響を受けます。成功すれば大きなリターンを得られる可能性がありますが、そのぶんリスクも高いです。初心者にとっては、企業ごとの分析が難しい場合も多いため、最初から個別株に集中投資するよりも、ETFを通じて市場全体に広く分散投資する方がリスクを抑えたスタートになります。

ETFが経済全体に与える影響

編集長

ETFは個人の資産形成だけでなく、経済全体にも影響を与えると言われています。その点について、先生のお考えをお聞かせいただけますか?

郡司 大志氏

まず、金融市場全体への影響についてですが、ETFは大量の資金を市場に流し込む一大プレイヤーになっており、その売買が株式市場の価格形成に与える影響は無視できなくなっています。たとえば、インデックス型ETFでは、特定の株価指数に連動するため、指数に組み込まれた企業の株を機械的に買い付けることになります。これにより、個々の企業の業績とは無関係に資金が流入し、時には「歪んだ価格形成」や「バブル的な評価」が生まれる可能性も指摘されています。逆に言えば、ETFの大規模な売却が行われた場合、指数全体に連動する形で広範囲に資産価格が下落するリスクもあるのです。

編集長

企業経営に対しては、どのような影響がありますか?

郡司 大志氏

ETFを通じて大量の株式が保有されると、それらの株を管理する運用会社、たとえばブラックロックやバンガードなどが、大企業の主要な株主として存在感を増すことになります。彼らは企業のガバナンスに対して意見を持つことができる立場となり、経営陣に対する「無言の圧力」や「環境・社会・ガバナンス(ESG)」に配慮した方針を求めるなど、企業経営の方向性に間接的な影響を与えるようになっています。

編集長

中央銀行への影響についてはいかがでしょうか?

郡司 大志氏

金融政策や中央銀行のバランスシートにもETFは関わってきています。たとえば日本銀行は、長らくETFの買い入れを通じて株式市場への資金供給を行い、景気や物価の安定を図ってきました。これは異例の政策であり、中央銀行が株式市場に間接的な影響力を持つという意味で、伝統的な金融政策の枠組みを超えた新たな議論を生んでいます。その結果として、日銀が日本企業の筆頭株主になるといった状況も生まれており、市場の健全性や資本主義のあり方に関する懸念も一部では広がっています。

ETFが持つ投票権の社会的意味

編集長

記事の中で、ETFが”投票権を持つ存在”になる可能性について触れられていました。これはどのような変化を社会にもたらすとお考えですか?

郡司 大志氏

ETFそのものは法的な人格を持たず、投資家の集合体に過ぎませんが、ETFの運用を担っている資産運用会社はETFを通じて、世界中の企業の株式を大量に保有しており、それに伴って議決権(投票権)も保有することになります。つまり、ETFに資金が集まれば集まるほど、実際にその資金を運用している機関が、世界の企業に対して「物言う株主」としての影響力を持つことになるのです。

編集長

このような変化の良い面と悪い面について、どのようにお考えですか?

郡司 大志氏

まず良い面としては、運用会社が長期的な視点から、企業に対して持続可能な経営やESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求めるようになってきたことです。かつては目先の利益だけが重視されがちだった企業経営も、ETF経由で関与する機関投資家が「持続可能性」や「社会的責任」を重視するようになったことで、企業側もそれに応える形で変化しつつあります。たとえば気候変動への対応やジェンダー多様性の促進など、経済的利益以外の価値が経営の中心に据えられるようになったのは、この流れの一部と言えるでしょう。

編集長

一方で、懸念される点はありますか?

郡司 大志氏

懸念されるのは権力の集中と透明性の問題です。少数の巨大運用会社が莫大な議決権を握ることで、実質的に世界中の企業の方向性を一部の民間企業が左右するような構図が生まれています。これは「民主的な資本主義」の理念と相容れない状況とも言え、誰がどのような基準で投票を行っているのかという点で、十分な透明性が確保されているとは言いがたい面もあります。ETF投資家自身は通常、個別の議決権行使には関わりませんが、その声が運用会社を通じてどう反映されているのかについて、一般に明確ではありません。

編集長

ETFの仕組みによる構造的な問題についてはいかがですか?

郡司 大志氏

投資家は「自分がどの企業に対して投票権を行使しているのか」を把握しづらくなっており、所有と責任の分離が進んでいるとも言えます。これは、資本主義の根幹である「オーナーシップ=責任」の原則を弱体化させる恐れもあります。

まとめ:ETFの未来と私たちの資産形成

本インタビューでは、大東文化大学の郡司先生に、ETFについての基本的な仕組みから経済・社会全体への影響まで、幅広くお話しいただきました。

ETFは投資初心者にとって、分散投資を手軽に実現できる優れた金融商品であることがわかりました。

手数料の低さや取引の利便性など、資産形成を始める方にとって魅力的なメリットがあります。

一方で、ETFの普及は経済全体に大きな影響を与え、特に運用会社が持つ議決権の行使については、良い面と懸念される面の両方が存在することがわかりました。

今回のインタビューが、読者の皆様の資産形成の参考になれば幸いです。

なお、投資を行う際には、よくご自身で調査・検討を行ったうえで、自己責任で判断することをお願いします。