将来の資産形成に不安を感じる人が増える中で、投資におけるリスク管理の重要性が高まっています。
しかし、レバレッジ取引や仮想通貨投資など、新しい投資手法のリスクを正しく理解している人はまだ多くありません。
そこで今回は、投資リスク管理の基本から実践的な手法までを明らかにするため、投資の専門家にお話を伺いました。
この記事を読むことで、レバレッジ取引の適切な活用方法や、仮想通貨と金の組み合わせ投資、さらには統計データを活用した投資判断まで、幅広く理解することができます。
資産形成に関心のある方はもちろん、投資のリスク管理について学びたい方にも役立つ内容です。

茶野 努
武蔵大学 経済学部金融学科 教授
【プロフィール】
1987/03 大阪大学 経済学部卒業
1999/03 大阪大学大学院 国際公共政策科博士課程修了 博士(国際公共政策)
1987/04 住友生命保険相互会社(入社)
1990/04 (株)住友生命総合研究所(出向)
1999/04〜2001/03 九州大学 経済学部 客員助教授
2008/09 ~ 武蔵大学 経済学部 教授
【主要著書】
『保険と金融から学ぶリスクマネジメント』、中央経済社、2024年3月
『基礎から理解するERM』中央経済社、2020年9月
『日本企業のコーポレート・ガバナンス』中央経済社、2020年3月
『日本版ビッグバン以後の金融機関経営』勁草書房、2019年1月
『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』中央経済社、2016年3月
レバレッジ取引のリスク管理について

本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。
まず最初の質問ですが、レバレッジ取引についてメリット・デメリットを踏まえた上で、どのようにリスクヘッジを行うことが大切でしょうか?



レバレッジをかけると、少ない資金で多くの収益を得ることができますが、逆方向に動くと大きな損失を被ることになります。
その為、レバレッジ比率は、自分のリスク許容度、要するに保有資産額などに応じて決めるのが基本です。
お金持ちの人であれば多少のリスクを取っても大丈夫ですが、資産のない人がレバレッジをかけすぎると、自分の予想が外れた時に大変なことになります。自分のリスク許容度、どの程度リスクを抱え込めるのかという点が一番大事にしていただきたいポイントですね。



ちなみに、茶野教授はレバレッジ取引などを実際にされたことはございますでしょうか?



そうですね、やはり仮想通貨は特に動きが激しいですからね。先が読めないと逆に大きな損失となりますので、現時点ではやっていないです。
仮想通貨と金の組み合わせ投資について



仮想通貨に関しては、値動きがかなり激しいですが、一方で金はかなり安定している印象があります。それを踏まえて、リスクヘッジとして金と仮想通貨を組み合わせた投資手法についてはどのようにお考えでしょうか?



基本的には相関を見なければいけません。相関というのは、一方が上がっている時に一方が下がっているという負の相関、ネガティブな相関をもつ資産を組み合わせるのが王道なのです。仮想通貨と金の場合は必ずしもそうとは言えません。
一方で、リスク保有能力の観点からは、金は安定的な収益源なので、これをある程度持つことによって投資全体の運用を安定させるという効果があります。
また、仮想通貨は乱高下しているのですが、長いトレンドで見るとやはり上昇傾向なんですね。だから、仮想通貨が下落した時にどれだけリスクに耐えられるか?、金を持っていると下支えになります。仮想通貨だけだと下落した時に次の手を打つことができないのですが、金を持っておけば、また立て直すことができます。



なるほど。やはり資産を分散させることが重要なんですね。



そうですね。
「ゼロにならない資産」というのが一番大事だと思うんですよね。自分のリスク許容度の範囲にリスクを収めるようにするのが基本かなと思います。
為替レートと投資戦略について



コモディティ市場において、原油や金などの商品価格と為替相場(特にドル円)には密接な関係があると思います。FX投資家が為替相場を予測する際に、どのような点に注目すれば良いでしょうか?



為替レートというのは、為替レートそのものに投資するFXという考え方もありますが、為替レートの動きというのは国際的な資金の流れを表しています。結局、ドル安は、ドル建て資産が嫌われているということになります。ドル建て資産が嫌われているのであれば、資金はどこに流れていくのか。資金がどう動くか、その先を探すという観点が重要です。ケインズは予想、期待の重要性を説きました。
逆にドルが強くなっている時には、ドルの資産の方に資金が流れていますから、流れに乗って米国株を買ったりドル建て資産に投資するのが基本的な考え方だと思います。



資産全体の流れを見て判断することが重要なのですね。



そうですね。
為替レートそのもの自体の予測は難しいのですが、資金全体の長期的な流れでドル安に行っているのか、ドル高に行っているのかというところから、マーケットの資金がドルベース資産の方に行っているのか、それとも逃げているのかということを見ることによって、利益の出るところが見つかってくると思います。
仮想通貨投資における保険の応用可能性



リスクに備えるという考え方で、仮想通貨の投資において保険を応用することは可能でしょうか?



保険もいろいろあって、一般的に保険というのはリスクの源泉がわからないとダメですよね。例えば自動車保険だと自動車の事故率、生命保険だと死亡率、そういうものが保険の主要なファクターになります。保険会社がそういうものを取り扱うということは、自動車保険の事故率をきちんと統計的に把握し、自分たちでリスクを管理できる、生命保険の場合は死亡率というものが統計的にきちんと把握できていて管理できる。そういうことが大前提でないと、保険商品というのは成り立たないんですよね。



やはりそこは難しいのですね…。



将来的には仮想通貨を使ったオプションみたいなものが出てくるかもしれません。市場のボリュームや安定性がある程度出てきて始めて、保険の一種と言えるオプションが仮想通貨の市場でも生まれてくると思います。今の段階では、まだ経験というか、市場の蓄積を積み重ねているところかなというのが私の見立てです。
データ・統計を活用した投資判断について



データや統計を使って投資の判断材料にしていく方法についてお伺いします。投資において、統計的に処理できる範囲のリスクと、予測が困難なリスクがあると思うのですが、どのようなデータや統計に着眼して投資を行えばよいかご見解をお聞かせください。



統計的に把握できる範囲というのは、統計量で言うと分散とか標準偏差、あるいは平均などを使って判断を行うということです。マルコビッツが平均分散アプローチという2パラメーターアプローチで投資理論を確立しました。投資のリスク・リターンは平均と分散あるいは標準偏差で管理できるんだという考え方です。
しかし、マルコビッツの「ポートフォリオ・セレクション」では確率は既知だとしています。しかしながら、実際の投資の世界では、確率は未知、将来起こるかは我々にはわかりません。逆に、そこに投資のチャンスがあると言えます。だから、統計で把握できるリスクはおおむね過去のデータを通して我々は把握します。しかしながら、今後どう変化していくか、トレンドを読むのが一番大事ですが、ここには統計では把握できない経験値が大きくものを言います。



指標だけが全てではないということですね。



仮想通貨のリターンとかボラティリティとか計算しても、今後のトレンドは、百人いれば百人の意見があると思います。実は、過去のデータ分析で得られたものよりも、将来の見通しができるだけの知見があるかどうかが、リスク管理の一番大事なところです。
その際、長期的に見ることが一つのポイントだと思います。短期の動きだけで見てしまうと、上がった下がっただけに終わるので、できるだけ投資のスパンは長く、長期のトレンドで見て、過去を顧みて将来を見据えていくスタンスが一番大事だと私は思っています。
トレンドを読む力を身につけるために



先ほどトレンド、将来を読むというお話をいただいたと思うのですが、そのスキルをつける上で、茶野教授が大事にしていることがあれば、お伺いできればと思っております。



世界の政治情勢を見ることだと思います。日本の新聞を見ても日本のことしか書いておらず、海外の新聞には日本以外にも中国、アメリカ、ヨーロッパのことが書いてあります。だから、日本の新聞しか読んでいない日本人と、様々な世界のことを知っているアメリカ人と、どちらの方が将来の見通しが利くかと言ったら、後者の方が、将来の見通しを正しく当てる可能性が高いと思うんですよね。
お金は世界中を動きますので、政治・経済情勢すべて含めて、主要国の情報を幅広く持っておくべきだと思います。



世界情勢を見る事なんですね。確かにお金は世界中に流通してますから納得できました。



私の勤めていた会社の部長は、いつもイギリスの「エコノミスト」を読んでいました。研究部にいた時に「これ読んでいると非常に役に立つんだ」と言っていて、知識の積み重ねが判断を行う上では重要なんです。
今後、ウクライナ戦争がどう変化するか、中東情勢がどうなるかなど、たとえば急に停戦合意となると劇的に投資環境は変わるかもしれません。必要な情報にアンテナを張っている人と張ってない人では、情報入手のタイミングが遅れるので判断を誤る結果につながります。常に日頃から世界の政治・経済の情報を広く得ておくべきだと思います。
まとめ:投資リスク管理の重要なポイント
本インタビューでは、投資の専門家に投資リスク管理について幅広くお話しいただきました。
レバレッジ取引では自分のリスク許容度に応じた適切な比率設定が重要であり、仮想通貨と金の組み合わせでは「ゼロにならない資産」を保有することの大切さが明らかになりました。
また、統計データの活用においては、過去のデータ分析と同時に長期的なトレンドを読む力の重要性が強調されました。
投資で成功するためには、世界の政治・経済情勢を幅広く把握し、長期的な視点で市場を見る姿勢が不可欠です。
今回のインタビューが、読者の皆様の投資リスク管理の参考になれば幸いです。