銀行はいま、何をすべきか?デジタル時代の“信頼”と役割

近年、スマートフォンの普及やデジタル技術の進化により、銀行の存在意義や役割が大きく変わりつつあります。

特に、非銀行業者の台頭や地方経済の縮小といった構造変化は、銀行にこれまで以上の柔軟な対応を求めています。

こうした状況を踏まえ、駒澤大学の代田先生に、現代の銀行の課題と今後の進化の方向性について伺いました。

この記事では、銀行の基本機能やDX・AI活用による変化、今後求められる役割までを整理し、金融の未来を読み解くヒントをお届けします。

代田 純
駒澤大学 経済学部 商学科 教授

1957年生。中央大大学院博士課程中退。博士(商学)。1991年日本証券経済研究所大阪研究所研究員。1994年立命館大学国際関係学部助教授を経て2002年より現職。駒澤大学で経済学部長、副学長を歴任。 近著に、『入門銀行論』(有斐閣、2023年、編著)、『デジタル化する証券市場』(金融財政事情研究会、2023年、共編著)など。2025年4月より在フィンランド、ユバスキュラ大学客員研究員。


銀行の本来の役割とその進化とは

編集長

代田先生、銀行の本来の役割とは、どのようなものでしょうか?
また、現代の銀行はそれをどう進化させてきたのでしょうか?

代田 純氏

銀行の本質的機能は、預金受入、貸出(信用創造)、為替(決済)という3つです。これら3つの機能はバラバラではなく、相互が密接に関連しています。預金口座でお金を預かり、貸し出す際には預金口座に振り込まれ、預金口座からお金が引き落とされて決済されています。証券会社や保険会社の口座は、最終的な決済機能を有していないので、銀行の預金口座とは異なっています。

編集長

なるほど。銀行の収益環境には影響はなかったのでしょうか?

代田 純氏

他方、これら3つの機能では、銀行が十分な収益をあげにくくなってきたことも事実です。預貸業務は銀行の基本的な業務ですが、長く続いたゼロ金利やマイナス金利のもとで、銀行が十分な収益をあげられなくなったのです。2024年4月以降の「金利のある世界」でも、預貸業務だけで収益をあげられると考える銀行は少ないでしょう。このため、証券業務等の役務取引収益(手数料等)などで多角化を図ってきたのです。

金融機関の存在意義が見直される背景

編集長

金融機関の存在意義が見直される時代になっています。なぜ今そのような問いが必要とされているのでしょうか?また、背景にはどんな構造変化があるのでしょうか?

代田 純氏

従来は、決済に関して、銀行の固有業務でした。個人も企業も、お金を払うには、現金で支払うか、相手の預金口座に振り込むか、でした。小切手や手形にしても、預金口座を媒介にしていることで変わりはありません。しかし、近年では資金移動業者が認められ、PayPayや楽天などでスマホ経由により、支払う(決済する)ことが可能になっています。背景には、スマホに代表される、デジタル技術の進化があります。他方、銀行の固有業務であった決済に、非銀行が参入していることもあり、銀行の牙城が崩されているのです。

編集長

実際に国外ではどのような変化が見られるのでしょうか?

代田 純氏

25年4月から、私はフィンランドのユバスキュラ大学で客員研究員として暮らしていますが、日常生活でATMから現金を引き出したことは一度もありません。すべてデビットカードで払っています。スーパーでもバスでも、デビットカードでタッチするか、かざす(非接触型)だけで支払い可能です。もっともデビットカードの引き落とし口座は銀行の預金口座ですから、銀行が不要になっているわけではないのです。

地域金融機関のDX・AI活用による可能性

編集長

人口減少や地域経済の縮小により、地域銀行や信用金庫の立ち位置が変わりつつあります。AIやDXを活用することで、どのような新たな可能性があるとお考えですか?

代田 純氏

一部の地銀や信金では、預金減少という事態が生まれており、深刻にとらえられているかもしれません。従来から、ゆうちょ残高の減少傾向が見られ、相続との関係が指摘されてきました。地方部で相続が発生し、ゆうちょを解約し、都市部の大手地銀や都銀に流入するという構図です。この要因は現在でも続いていると見られます。

編集長

金利環境の変化にも影響しているのでしょうか?

代田 純氏

はい。現在の信金等での預金伸び悩みは、やはり金利の復活が影響しているでしょう。金利の復活で、預金者はより高金利を求めている。インターネット銀行は店舗等を持たないから、高金利が可能で、地方部からも一定の資金が流入するでしょう。ネット銀行は地域基盤を持たないから、全国的に預金を集めることができます。

編集長

預金の伸び悩みは他にどのような要因が考えられますか?

代田 純氏

銀行のバランスシート(BS)で考えると、貸出の伸び悩みは預金の伸び悩みとなって現れます。貸出とは、貸出先の預金口座にお金を振り込むことだから、貸出が増えないと預金も増えない。地方での人口減で住宅ローンが、地域経済の縮小で企業向け貸出が影響を受けている可能性があります。

編集長

地域金融機関ではどのようにAIやDXを活用する可能性があるのでしょうか?

代田 純氏

地域金融機関でのAIやDX活用は足元を含め、相当なスピードで進むのではないでしょうか。まず、人手不足という問題があります。2~3年前まで、どこの金融機関も新規採用を抑制してきたため、現場でリーダーシップをもった若手が不足しているはずです。このため、コールセンターやよくある質問(Q&A)コーナーを手始めにAIを導入したいといった声が多いと感じます。

編集長

本人確認もデジタル化が進んでいるのでしょうか?

代田 純氏

そうですね。マイナンバーカードによるオンライン本人確認もDXを加速させる可能性があります。従来は、運転免許証等のコピーで人手をかけて確認してきましたが、AIを利用して顔写真を改ざんすることも容易になっています。これに対抗するために、オンライン本人確認が必要となっています。

編集長

そうなんですね。他国での本人確認はどのような状況なのでしょうか?

代田 純氏

フィンランドに暮らしていたことがあるんですけど、驚いたことは、銀行口座の開設がとても厳しいということです。ありとあらゆる本人確認書類(パスポートのほか、居住許可証等)の提出を求められ、最初はオンライン審査ですが、最後に面談があって、ようやく口座開設に至ります。マネーロンダリング(以下、マネロン)等への危機意識が、日本とは比べようがないくらい強い。ロシアと国境を接した小国(人口約560万人)における防衛の一環と理解している。フィンランドは北欧4か国(スウェーデン、ノルウエー、デンマーク)のなかで、現金残高対GDP比率が最も高い。その背景として、ロシアによるマネロンが指摘されることがあります。DXを活用して、本人確認とマネロン対策をしていると思います。

AIによる信用スコア解析と「人を見て貸す」機能

編集長

AIが信用スコアを解析し、融資の判断を行うような時代が現実味を帯びています。そうなったとき、銀行が果たす”人を見て貸す”という機能はどう変わっていくと思われますか?

代田 純氏

中国では、アリペイやウィーチャットペイが銀行業に進出し、AIによりビッグデータを分析して、信用スコアを算出し、融資を審査しています。お金を借りたい人は、氏名、住所等とならび年収や学歴等を入力すると、AIが貸出上限や金利を算出されます。日本の金融学会でも以前に報告があり、アリペイ等と銀行の貸倒率(デフォルト率)を比較すると、アリペイ等のほうが低いというデータが出ています。

編集長

米国のビッグテックはどのような動きを見せているのでしょうか?

代田 純氏

グーグルやアマゾン、アップルなど米系ビッグテックは、現在まで銀行業に直接進出しているわけではないが、JP・モルガンやゴールドマン・サックスといった米大手金融機関と提携して、金融分野に進出していることは周知の通りです。

編集長

AIによる融資判断はどの範囲に適用されると考えられますか?

代田 純氏

AIを活用した融資判断等は、マス(リテール)にとどまるのではないでしょうか。イメージとして、融資額数十万円で、金利数パーセントの個人向け融資であれば、件数を増やす必要もあり、AIが活用されるでしょう。しかし、M&A関連で数百億円の融資案件を、AIだけに判断させることは今後もないのではないでしょうか。融資先の社長等と会い、経営陣の人柄等も含めて、「人を見て貸す」ことは続くでしょう。AIやDXといった流れの一方、コーポレートガバナンスやコンプライアンスも重視されており、融資先で不祥事が起これば、銀行の責任も問われる可能性があります。また例えば、社長のハラスメント案件が報道された場合、その企業の収益に影響し、銀行等の融資回収に影響する可能性もあります。こうした連関を踏まえると、「人を見て貸す」ことは存続すると思います。

まとめ:デジタル時代の銀行の新たな役割

本インタビューでは、駒澤大学の代田先生に、デジタル時代における銀行の課題と今後の方向性について詳しく解説していただきました。

銀行の基本機能が変化する中で、非銀行業者の台頭により従来の牙城が崩されつつある一方、AIやDXの活用は新たな可能性をもたらしています。

特に地域金融機関においては、人手不足の解消やデジタル化された本人確認など、効率化と安全性の両立が求められています。

AIによる信用スコア解析が進展する中でも、「人を見て貸す」という銀行の本質的な機能は、特に大口融資案件において重要性を保ち続けると代田先生は指摘しています。

フィンランドの事例からもわかるように、デジタル化が進む中でも、銀行は信頼の維持と不正防止において重要な役割を果たし続けると同時に、国によって異なるデジタル化への取り組みがあることも明らかになりました。

今回のインタビューが、読者の皆様の金融の未来についての理解の一助となれば幸いです。